泡とスポンジ
私はスポンジが好きだ。
理由は知らない。
ただただ無性に好きなのだ。
スーパーでもホームセンターでもはたまた他人のキッチンでも、そいつを見かければ必ず立ち止まって眺めてしまう。
スポンジならキッチン用だろうがお風呂掃除用だろうがなんでも構わない。
最近洗車用スポンジという新ジャンルを発見してしまい、自分のスポンジにおける守備範囲の広さに辟易としている。
スーパーで5個入りセットになっているような安いものも好きだし、
小綺麗な雑貨屋に単品で売ってそうな高めのスポンジも大好きだ。
安いスポンジは二層のものが多い。
だいたいのスポンジはボコボコが大きくてへちまみたいにスカスカだ。
すぐにダメになってしまうものも多いのだけど、たまにぎゅっと身の詰まった質の良いものも見かける。
(質がいい、とは私好みということである)
イオンで買った実家用のキッチンスポンジはまさしくそれだった。
3色入りの5個セットでお値段なんと88円。
家に帰ってすぐにビニール袋をほっぽり出してキッチンで開けた。
一番上に鎮座するスポンジを手に取って眺めてみる。
スポンジの部分がアニメのチーズみたいな明るい黄色で、不織布の部分が焦げ付いたような濃い緑。
安いくせになかなか渋い見た目をしている。
おばあちゃんの家とかにありそう。
使いこまれたキッチンの片隅によく似合う。
この色の組み合わせはブランドが付いてるような古いスポンジに多くて、百均とかだとあんまり見かけない。
最近の百均のは安っぽいパステルカラーのやつが多い気がする。
それはそれで可愛らしいのだけれど、なぜだか私はあんまり好きになれない。
だからこの渋い組み合わせのスポンジを見つけるととても嬉しくなって、ついついカゴに入れてしまうのだ。
新品のスポンジは不織布の部分が硬くてバキバキだ。
バキバキは使われるたび水と洗剤でほぐされて、少しずつ柔らかくなっていく。
この過程がたまらなく好きで、スポンジを新しくするとついつい意味のない洗い物を増やしてしまう。
バキバキのほうも気づいたらすっかりうちの子ですという顔をしてシンクに佇んでいるから、それがたまらなく愛おしい。
使い古したスポンジとの別れは辛い。
不織布の部分がなんとなくくしゅっとして、スポンジ全体が萎んできたら替え時だと思っているのだけれど、
時間をかけて育ててきたスポンジとはなんとも離れ難いので
お掃除用として第二の人生を歩んでもらうことにしている。
それでも悲しいものでいつか別れはやってくる。
第二の人生を終えた彼らは満身創痍という言葉がぴったりだ。
あの頃のバキバキの面影はとうに消え失せてふにゃふにゃのカスカスのぺしゃんこになっている。
それでも情けなくなんかない。絶対に。
生き絶えたスポンジをゴミ箱に捨てる。
どうにも名残惜しい。
これから他のよくわからないゴミと一緒に焼却炉で燃やされるのだろうか。
ほんとは土とかに埋めてあげたい気もする。
でも環境には良くないよね。
日本は火葬の文化だからこれでいいのかもしれない。
来世はブランドもののスポンジに生まれ変わって富豪の家に買われてね。
やばい。収集がつかなくなってきた。
とにかく、私はスポンジが大好きだ。
スポンジに水と洗剤を含ませて一握りする瞬間が好き。
勢い余って弾かれた泡が空中を飛ぶのが好き。
ふと鼻に届く洗剤の香りが好き。
食器やシンクやバスタブを柔らかいスポンジで拭う感触が好き。
スポンジと、それによって生み出される「洗う」という行為に、私はなぜだかずっと心臓を掴まれている。
汚れが泡で溶かされていくのを見るのはとても気持ちがいい。
あまりにそれらが好きなので、食器は絶対に溜まらないしお風呂は入っている時間よりも掃除している時間の方が長い。たぶん。
今のところ私のキッチンには2個のスポンジが生息している。
食器用のスポンジは猫のカタチをしたもので、前にうちにいた白い猫によく似ている。
不思議なことに、カフェで働いていた頃キッチンで使われていたのも同じスポンジだったし、今のフレグランスのバイトでも瓶を洗うときにはこれだった。
このカタチのスポンジとはどうやら縁があるらしい。
もうひとつのスポンジは三層構造で、不織布とスポンジの間にもう一段階プニプニの何かがある。
泡立ちが素晴らしくて、真ん中のプニプニが深海生物みたいで可愛らしいのでお気に入りだ。
お風呂のスポンジは黄色とミントグリーンの色合いがきれいだと思って買ったのだけど、
開けてみたらミントグリーンの部分にマジックテープのトゲトゲみたいなのが付いていて驚いた。
汚れを掻き出すためらしいのだが、
私としたことがなんて邪道なものを買ってしまったのかと頭を抱えてしまった。
早急に使い古して新しいのを買わなくては。
気付いたら2000字近い文量になっている。
普段はレポートも碌に書けないくせに、
愛というものは恐ろしい。
スポンジが好きです、なんて言うと大抵の人からは怪訝な顔をされてしまう。
フレグランスのバイトでも、みんなが嫌がる瓶洗いをスポンジ愛のために積極的にやっていたら変な奴扱いされた。
日本のどこかに同志はいないものかとたまにネットサーフィンをしてみるのだけど、当然のようにいない。
スポンジオフ会とかないのかな。
自分はちょっと変わっているのかと思って
取り急ぎスポンジへの愛について思うままに書いてみた。
こういうのは就活の練習?にはなりませんかね。
誰かひと部分でも共感してくれないかな。
きっと私のあまりの熱量に
あなたはこれからスポンジを見るたび私のことを思い出す呪いにかかったことでしょう。
すいません。これからも仲良くしてね。
2020.5.3