日記

 

7月7日

金曜の夜、仕事が終わってすぐに金沢行きの列車に飛び乗った。

 

名古屋発、米原乗り換え金沢行きの列車はとてもとても長い。

本を読んだり、金沢のお土産やご飯を調べてみたりする。

 

2週間ぶりに彼に会える。

木曜にした思いつきの電話で急に決まったことだけど、遠距離恋愛にはこれくらいの勢いが大切だ。

 

金沢駅に着き改札を出ると、彼が車で迎えに来てくれていた。

髪を黒く染めた私を見て、一瞬誰だかわからなかったと笑う顔が好き。

 

小雨の中有名なラーメン屋に行って、車で家に帰った。

はじめて入る彼の部屋は、この3ヶ月の私が知らない生活がたくさんあって少し寂しかった。

 

一緒にご飯を食べて、一緒に眠る。

こんなにも素晴らしくて幸せなことはないのに、

私はいつも余計なことをする。

 

自分で自分の首を絞めることばかり。

眠っている彼の隣で後悔する。

 

 

7月8日

ふたりでお寿司を食べた。

金沢の魚はびっくりするぐらい美味しかった。

 

車で私が行きたいと言ったお茶屋と飴屋に行って、夜は彼が大好きな焼肉屋に連れて行ってもらった。

 

帰りは土砂降りの雨だった。

雨が治るまで車を走らせようとドライブをした。

 

いろんな話をした。

途中、やきもちを焼いて拗ねた。

わたしも彼に一目惚れされてみたかった。

 

 

7月9日

お昼ご飯は近所のオムライス屋へ行った。

彼が家具を見たいと言うので、家具屋めぐりをした。

ずっと眠い。

 

どんなに楽しくても、私は必ず終わりを想像してしまう。

 

時間はあっという間だ。

駅まで送ってくれる帰り道、やっぱりもう少し一緒にいたくて始発で帰ることにした。

 

タクシーで帰って彼が作ってくれたたらこパスタを食べた。

一緒にスキップとローファーを見た。

 

寝る前、鼻水が止まらない。

喉が痛くなってきた。嫌な予感がする。

 

7月10日

4時に起床。

鼻が詰まってうまく眠れなかった。

やはり喉が焼けるように痛い。

 

熱を測る。37.1だから微妙。

リンパが腫れて喋れない。

体が重い。仕事には行けない。

 

体調が悪いのと迷惑をかけるのが苦しい。

 

もう一度眠って病院へ行く。

やはりいつもの事だった。

ここ最近元気だったから油断していた。

 

薬をもらって帰ると彼がうどんを作ってくれた。

優しくてあたたかくて泣きそうになった。

腫れた喉をうまく通らないけど、たくさん食べられた。

 

浅い眠りを繰り返す。起きても寝ても苦しい。

熱が上がり始める。38度。喉は痛みを増す。

 

夜は冷たいものにしようね、とそうめんを作ってくれた。

 

熱に浮かされて少しだけ元気が戻る。

ドラえもんを見る。

 

夜中何度も目が覚めた。

熱くて苦しくてソファで1人眠る。

奇妙な夢ばかり見る。

 

7月11日

今日も仕事に行けない。

オムライスを作ってもらう。

 

解熱剤が効き始め、熱が少し下がってよく眠れるようになった。

眠ると喉の奥がつんとする。痰と鼻水でうまく呼吸ができずいびきをかく。

 

時折喉の奥に針を刺すような痛みがあって咳き込むと、えずいて苦しい。

 

短くて深い眠りを繰り返す。

 

さすがに3日も休めないから帰らなくてはという気持ちと、まだ休みたい、帰りたくないという気持ちで葛藤する。

 

子どものように駄々をこねる。面倒くさいやつ。

 

結局最終の便で帰宅することにした。

寂しい。2人だけの世界から出て現実に戻るのが怖い。

一緒に長く居すぎたねと言われて、その通りだと思う。

 

23時に家に着く。

明日はもう少し楽だといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泡とスポンジ

 

 

 

私はスポンジが好きだ。

 

 

理由は知らない。

ただただ無性に好きなのだ。

スーパーでもホームセンターでもはたまた他人のキッチンでも、そいつを見かければ必ず立ち止まって眺めてしまう。

 

 

スポンジならキッチン用だろうがお風呂掃除用だろうがなんでも構わない。

最近洗車用スポンジという新ジャンルを発見してしまい、自分のスポンジにおける守備範囲の広さに辟易としている。

 

スーパーで5個入りセットになっているような安いものも好きだし、

小綺麗な雑貨屋に単品で売ってそうな高めのスポンジも大好きだ。

 

 

安いスポンジは二層のものが多い。

だいたいのスポンジはボコボコが大きくてへちまみたいにスカスカだ。

すぐにダメになってしまうものも多いのだけど、たまにぎゅっと身の詰まった質の良いものも見かける。

(質がいい、とは私好みということである)

 

 

イオンで買った実家用のキッチンスポンジはまさしくそれだった。

3色入りの5個セットでお値段なんと88円。

 

家に帰ってすぐにビニール袋をほっぽり出してキッチンで開けた。

一番上に鎮座するスポンジを手に取って眺めてみる。

スポンジの部分がアニメのチーズみたいな明るい黄色で、不織布の部分が焦げ付いたような濃い緑。

 

安いくせになかなか渋い見た目をしている。

おばあちゃんの家とかにありそう。

使いこまれたキッチンの片隅によく似合う。

 

この色の組み合わせはブランドが付いてるような古いスポンジに多くて、百均とかだとあんまり見かけない。

最近の百均のは安っぽいパステルカラーのやつが多い気がする。

それはそれで可愛らしいのだけれど、なぜだか私はあんまり好きになれない。

だからこの渋い組み合わせのスポンジを見つけるととても嬉しくなって、ついついカゴに入れてしまうのだ。

 

新品のスポンジは不織布の部分が硬くてバキバキだ。

バキバキは使われるたび水と洗剤でほぐされて、少しずつ柔らかくなっていく。

この過程がたまらなく好きで、スポンジを新しくするとついつい意味のない洗い物を増やしてしまう。

バキバキのほうも気づいたらすっかりうちの子ですという顔をしてシンクに佇んでいるから、それがたまらなく愛おしい。  

 

 

使い古したスポンジとの別れは辛い。

不織布の部分がなんとなくくしゅっとして、スポンジ全体が萎んできたら替え時だと思っているのだけれど、

時間をかけて育ててきたスポンジとはなんとも離れ難いので

お掃除用として第二の人生を歩んでもらうことにしている。

 

それでも悲しいものでいつか別れはやってくる。

第二の人生を終えた彼らは満身創痍という言葉がぴったりだ。

あの頃のバキバキの面影はとうに消え失せてふにゃふにゃのカスカスのぺしゃんこになっている。

それでも情けなくなんかない。絶対に。

 

生き絶えたスポンジをゴミ箱に捨てる。

どうにも名残惜しい。

これから他のよくわからないゴミと一緒に焼却炉で燃やされるのだろうか。

ほんとは土とかに埋めてあげたい気もする。

でも環境には良くないよね。

日本は火葬の文化だからこれでいいのかもしれない。

来世はブランドもののスポンジに生まれ変わって富豪の家に買われてね。

 

 

やばい。収集がつかなくなってきた。

 

 

とにかく、私はスポンジが大好きだ。

 

スポンジに水と洗剤を含ませて一握りする瞬間が好き。

勢い余って弾かれた泡が空中を飛ぶのが好き。

ふと鼻に届く洗剤の香りが好き。

食器やシンクやバスタブを柔らかいスポンジで拭う感触が好き。 

スポンジと、それによって生み出される「洗う」という行為に、私はなぜだかずっと心臓を掴まれている。

 

汚れが泡で溶かされていくのを見るのはとても気持ちがいい。

あまりにそれらが好きなので、食器は絶対に溜まらないしお風呂は入っている時間よりも掃除している時間の方が長い。たぶん。

 

今のところ私のキッチンには2個のスポンジが生息している。

食器用のスポンジは猫のカタチをしたもので、前にうちにいた白い猫によく似ている。

不思議なことに、カフェで働いていた頃キッチンで使われていたのも同じスポンジだったし、今のフレグランスのバイトでも瓶を洗うときにはこれだった。

このカタチのスポンジとはどうやら縁があるらしい。

 

もうひとつのスポンジは三層構造で、不織布とスポンジの間にもう一段階プニプニの何かがある。

泡立ちが素晴らしくて、真ん中のプニプニが深海生物みたいで可愛らしいのでお気に入りだ。

 

 

お風呂のスポンジは黄色とミントグリーンの色合いがきれいだと思って買ったのだけど、

開けてみたらミントグリーンの部分にマジックテープのトゲトゲみたいなのが付いていて驚いた。

汚れを掻き出すためらしいのだが、

私としたことがなんて邪道なものを買ってしまったのかと頭を抱えてしまった。

早急に使い古して新しいのを買わなくては。

 

 

気付いたら2000字近い文量になっている。

普段はレポートも碌に書けないくせに、

愛というものは恐ろしい。

 

 

スポンジが好きです、なんて言うと大抵の人からは怪訝な顔をされてしまう。

フレグランスのバイトでも、みんなが嫌がる瓶洗いをスポンジ愛のために積極的にやっていたら変な奴扱いされた。

 

日本のどこかに同志はいないものかとたまにネットサーフィンをしてみるのだけど、当然のようにいない。

スポンジオフ会とかないのかな。

 

自分はちょっと変わっているのかと思って

取り急ぎスポンジへの愛について思うままに書いてみた。

こういうのは就活の練習?にはなりませんかね。

誰かひと部分でも共感してくれないかな。

 

きっと私のあまりの熱量に

あなたはこれからスポンジを見るたび私のことを思い出す呪いにかかったことでしょう。

 

 

すいません。これからも仲良くしてね。 

 

 

2020.5.3